代表的な呼吸器の疾患(病気)

かぜ症候群,気管支炎(きかんしえん)
いわゆる「風邪(かぜ)」です。発熱、咳、だるさなどの症状が出現します。普通は、鼻から喉(のど)にかけての急性ウイルス感染症を「かぜ症候群」と呼びます。喉よりも奥の気管/気管支の炎症では、気管支炎と診断することもあります(図9)。


少々の「かぜ」で、クリニックや病院を受診する方は少ないかもしれません。成人の方であれば、ドラッグストアの薬剤師と相談し、市販のかぜ薬で十分でしょう。かぜ症候群の大半はウイルス感染です。ウイルスには、抗菌薬(抗生物質や抗生剤とも言います)は効きません(市販のかぜ薬には抗菌薬は入っていません)。かぜ症候群には対症療法(困っている症状を和らげる)を行うことが中心です。日常生活を送っている一般の方であれば、1週間も療養すれば自分の免疫力で治癒します。気管支炎(咳が強い)の場合、咳は数週間も継続することがあります。がんこな咳(止まらない咳、夜間の咳)は日常生活に支障をきたす症状です。
市販のかぜ薬でも症状が改善しない場合(長引く咳や汚い痰など)は、当クリニックにご相談ください。市販薬よりもやや強力な鎮咳薬(咳止め)や去痰剤(痰きり)、喘息治療に用いる吸入薬の処方などが可能です。
一方、注意が必要な「かぜ症候群」も存在します。下の3つの項目に当てはまる方は、当クリニックや他の医療機関への受診をお勧めします。

(1) 抵抗力の弱い方

日常生活に介助が必要な方、70歳以上の高齢の方、入退院を繰り返す既往症を持つ方などが該当します。多くの方は「かかりつけ医」をお持ちでしょうから、自然と「かかりつけ医」に相談することになるでしょう。「かかりつけ医」のない方は、早めの受診をお勧めします(当クリニックでも結構です)。健常者であれば、自然治癒するような「かぜ」でも、抵抗力の弱い方は、肺炎への移行や既往症の悪化を招くことが多々あります。

(2) インフルエンザウイルスのかぜ症候群(いわゆる「インフルエンザ」)

いわゆる「インフルエンザ」です。毎冬、日本中で猛威を振るうかぜ症候群の一つです。他のかぜ症候群と区別される理由は、インフルエンザの感染力の強さ、症状の強さ(高齢者は命を落とすことがあります)、抗インフルエンザウイルス薬(よく効く薬)が存在することなどです。インフルエンザウイルスは、飛沫感染(つばや唾液がかかること)によって、職場や学校であっというまに伝染します。特徴的な症状は、38度以上の高熱、ふしぶし(手足の関節)の痛みです。インフルエンザは簡単に検査が可能であり、症状、検査結果、流行状況などを考慮して診断します。
20年前、インフルエンザの治療は自宅療養のみでした。近年、抗インフルエンザ薬(タミフルやリレンザなど)が発売されました。抵抗力の弱い方に、抗インフルエンザ薬を投与することは必要です。一方で、一般の方(健常者)に投与するかどうかは、医療者の中でも意見は分かれます。当クリニックでは患者様の状態に合わせ、投薬内容を決定します。
インフルエンザでは、休学(欠勤)が必要です。通学の再開は「インフルエンザ発症後5日間が経過し、かつ解熱した後2日間が経過するまで」と法律で決まってします。成人の出勤再開についての決まりはありませんが、通学に準じて指導しています。
毎年のようにインフルエンザの流行が問題になっています。インフルエンザの感染予防のため、外出後の手洗い、咳が出始めたときのマスク着用などは有効です。それ以上に、インフルエンザワクチンの接種をお勧めします。高齢の方、既往症のある方、体力のない方などはなおさらです。当クリニックでも、インフルエンザ流行の前に予防接種を準備する予定です。インフルエンザ予防接種は、毎年の予防接種が必要です。また、十分なワクチンの効果を期待するには、流行の2週間以上前にワクチン接種が必要です。

(3)細菌感染症(さいきんかんせんしょう)も併発(へいはつ)した場合

細菌とは、いわゆる「バイ菌」です。かぜ症候群(ウイルス感染)により、喉や気管支の粘膜が痛んだときに、細菌感染を合併することがあります。肺の中に細菌感染の巣をつくるようになると、細菌性肺炎と診断されます。多くの場合は、痰の量が増え、黄色や茶色の粘稠(ねんちょう=ネバネバ)な痰になります。細菌感染症を併発した場合には、抗菌薬の投与が必要です。細菌性肺炎の治療は、次項に記載します。

肺炎(細菌性肺炎 さいきんせいはいえん)
肺炎といえば、通常は細菌性肺炎を指します。細菌(バイ菌)が肺の中で繁殖し、炎症を引き起こす病気です(図9)。肺炎は増加傾向にあり、脳血管障害(脳卒中)を抜いて我が国の死亡原因の第3位となったそうです。高齢の方や肺に既往症がある方では、かぜやインフルエンザをこじらせて肺炎になることもあります。発熱と同時に、呼吸困難(いきぎれ)、多量の痰を伴う咳などを認めます。診察、胸部レントゲン、CT、採血などの各種検査を行います。
治療は抗菌薬(いわゆる「抗生物質」)の投与が中心となりますが、口や鼻からの酸素投与が必要になることもあります。高齢者、食事が摂れない(脱水症状)、酸素が足りない(酸素投与が必要)、全体的に衰弱(すいじゃく)しているなどの症状がある時には、入院診療となります。入院診療によって、大半の肺炎の患者さんは軽快します。しかし、高齢者(特に80歳以上)の方では、肺炎は命取りになりかねません。軽症の肺炎であれば、当クリニックにて抗菌薬(内服)を中心に処方します。高齢の方、全身状態の思わしくない方(体調が相当悪い方)などは総合病院への紹介となります。
肺の中で細菌の繁殖が抑えられず、肺炎が拡大すると、肺化膿症や膿胸といった重症な状態に進んでしまうことがあります。肺化膿症は、肺の中に膿がたまってしまうことです。膿胸は、胸の中に「膿の水」が貯留してしまうことです。どちらも重症の病状ですから、総合病院での入院診療が必要となります。肺炎をこじらせたり、肺化膿症や膿胸に進んでしまう患者さんの大半は、「ハンデ」をお持ちです。ハンデとして、高齢、栄養不良(やせ)、糖尿病、慢性肺疾患(肺に持病がある)、などが多いようです。
肺炎球菌ワクチンという言葉を聞いたことがあるかもしれません。全年齢を通して、肺炎球菌(細菌の一種)は、細菌性肺炎の原因菌の第一位です。65歳以上の方、呼吸器疾患の既往を持つ方には、肺炎球菌ワクチンの接種をお勧めします。当クリニックでもこのワクチン接種は可能ですので、お問い合わせください。初回のワクチン接種は、市町村の助成が受けられることがあります。助成については市役所にお問い合わせください。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
誤嚥を契機に発症した肺炎です。誤嚥は、気管(気管支)に間違って食べ物や唾液が入ってしまうことです。一般の方(健常者)には、ほとんど発症しません。健康であっても、誰しもが食事中にむせを経験したことがあります。これは誤嚥の一種ですが、同時に咳をして、誤嚥したもの(気管に入ってしまった食物)を咽頭に押し戻します(咳反射)。普通は咳反射があるので、誤嚥性肺炎を発症しません。厄介なのは、食事中であろうがなかろうが、持続的に知らず知らずに誤嚥している場合です。高齢の方、脳神経に既往症のある方、寝たきりに近い生活の方などが該当します。兼ね備えているはずの誤嚥予防機能(声門がきちんと閉じる、ムセや咳ができる、その他)がうまく作動せず、慢性的な誤嚥状態となります。細かい食物残渣(しょくもつざんさ:半分消化された食べ物)や唾液が気管に垂れ込み、肺まで入り込んで肺炎を発症します。多くは細菌性肺炎なので、発症してしまった場合には、細菌性肺炎に準じた診療(検査と治療)が必要となります。軽症であれば、当クリニックにて抗菌薬(内服)を中心に処方します。高齢の方、全身状態の思わしくない方(体調が相当悪い方)などは総合病院への紹介となります。もともと、高齢で脳神経にハンデがある方が多いので、誤嚥性肺炎を発症してしまった場合には、多くの方が入院診療となります。
せっかく誤嚥性肺炎が治って退院となっても、多くの方は誤嚥が続きます。よって、誤嚥性肺炎を繰り返すことが多くなります。残念ながら、誤嚥を治す方法は見つかっていません。誤嚥(誤嚥性肺炎)を繰り返す方には、去痰剤や慢性的な抗菌薬の投与が適応となります。嚥下を助けるリハビリや、寝たきりを防ぐリハビリも有効でしょう。退院後の療養についても、相談が必要です。
肺結核(はいけっかく)
結核菌(けっかくきん)が肺の中で発病したことを肺結核と呼びます。一般の方の多くは、結核を昔の病気と考えているようです。現在の日本でも、毎年2万人くらいの方が肺結核と診断されています。結核菌は、抗酸菌(こうさんきん)というグループに分類されます。肺結核の患者さんが、咳と一緒に喀出した(口から出した)結核菌は、しばらく空中に浮いています。他の方がその結核菌を吸い込み(空気感染)、肺の中で結核菌が繁殖し、肺炎となったものが肺結核です。しかし、肺結核にまで至る方は、結核菌を吸い込んだ方の10%程度です。今の日本でも、結核菌の吸い込みは珍しくないと考えられます。肺結核を発病した方の多くは、高齢者や免疫力の低下した方など、ハンデを持った方です。しかし、皆さんご存知の若い芸能人が肺結核で休業したように、健常な若者でも発病することがあります。
肺結核の症状は、発熱、だるさ、2週間以上つづく咳、痰が増える、血痰(血液まじりの痰)、寝汗(ねあせ)などです。しかし、呼吸の症状が少ない肺結核の患者さんもいらっしゃるようなので、専門家でも肺結核の診断は簡単ではありません。このような症状の方や、気になる方は、医療機関に相談してみるとよいでしょう。まずはそこからです。胸部レントゲンやCT検査により、まずは結核を疑います。重要なのは、痰の中に結核菌を確認することです。よって、痰の検査が重要になります。
肺結核の治療は、ほとんど内服薬(のみぐすり)にて行います。3種類か4種類の抗結核薬(こうけっかくやく、結核に対する抗菌薬)を同時に内服します。副作用の関係で、注射剤が用いられることもあるようです。治療期間は、少なくとも半年以上になります。医師の指示に従い、決められた内服薬を毎日内服することが重要です。根気強い治療により、大半の患者さんは治癒します。薬を適当に内服したり、自己判断で通院をやめたりすることは絶対にいけません。結核が治らないばかりでなく、周囲(家族内や職場など)に感染させるリスクが増えてしまいます。
肺結核は、感染症法という法律で定められた特殊な「肺感染症」です。医師は、肺結核の患者さんを見つけた場合、保健所に届け出る義務があります。この法律により、結核菌を喀出している患者さんは、一定期間の入院生活をしていただくこともあります(他人への感染拡大の予防)。その反面、肺結核の医療費には公費負担制度があり、経済的な負担は少ないと考えられます。国は、肺結核をとても重要視しているとのでしょう。
肺結核について心配な方はご相談を頂ければと思います。当クリニックでは、胸部レントゲン、CT検査、痰の検査が可能です。しかし、当院での結核の治療は困難です。結核患者さんが入院できる病院に紹介することになります。
非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう)
長くて分かりづらい名前ですが、近年、中高年の女性で増加傾向にあります。病名の意味は,「(肺の)抗酸菌症であるけれども、(感染力の強い)結核菌によるものではありません」という意味です。非結核性抗酸菌には、150種類くらいの細菌があるそうです。ダントツに多いのは、マイコバクテリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラーレという菌です。暗号みたいな名称です。二つ合わせてマックとも呼ばれます。一般の方は、「非結核性抗酸菌症=マック症」と考えてよいでしょう。同じ抗酸菌ですので、結核菌とマックは親戚関係にあります。しかし、決定的に異なる点は、マック症が「ヒトからヒトに感染しない」ことです。ですから、法律で縛られることはありません。
マック症も胸部レントゲンやCTを用いて検査を行いますが、精密検査や治療が必要かどうかの判断は、総合病院の呼吸器専門医が担当します。当クリニックにてマック症が疑われた場合、症状やCT検査の結果を考慮し、総合病院への紹介を検討します。
気管支喘息(きかんしぜんそく)
いわゆるゼンソクです。身の回りにも気管支喘息の方はいらっしゃると思います。成人の約10%が気管支喘息と言われています。治療方法が進歩したとはいえ、わが国では毎年1000人以上が「喘息死」に至っています。まだまだ侮れない呼吸器疾患です。気管支喘息の原因は多岐に及び、アトピー素因(いわゆるアレルギー体質)、生活環境(ダニ,ホコリ,ペットなど)、喫煙(タバコ)、大気汚染などが挙げられています。気管支喘息は、肺の奥の方の細い気管支が、何らかの原因によって慢性的な炎症を引き起こし狭窄(細くなる)することです(図10)。


この狭窄は両側の肺に、かつ広範囲に及びます。その結果、肺の奥まで新鮮な空気は届きません。肺でのガス交換が不十分になり、呼吸不全となります。狭窄した気管支をかろうじて通過した空気が、笛のように「ヒューヒュー」と音を立てます。普通は両方の胸から「ヒューヒュー」(気道狭窄音)が聞こえます。気管支喘息の気道狭窄は、よくなったり悪くなったりします。とても悪くなって歩くのもしんどくなった状態が「喘息発作」です。
気管支喘息の患者さんでは、たいていの場合、胸部レントゲンやCT検査に異常はありません。診察所見を中心に気管支喘息の診療を行います。当クリニックでは呼気NO(一酸化窒素喘息)測定器を導入しました。この機器を利用することにより、より正確に気管支喘息の診療ができると考えています。
治療方法は、年齢や重症度によって様々ですが、ステロイド吸入薬をベースにした治療となります。治療が効いて喘息発作を起こさなければ、ステロイド吸入薬を継続します。気管支喘息は、ある日とつぜん治る病気ではありません。何年も何十年も病気と付き合う覚悟が必要です。患者さんの自己判断で治療を中断してはいけません。安易な治療中断は、気管支喘息の重症化や喘息発作の原因となります。かかりつけ医と相談しながら、決められた治療を続けることが重要です。気管支喘息の症状が不安定なとき(薬が効かない)ときや、喘息発作のときには、総合病院での診療が必要になります。喘息発作は急に発症するので、緊急入院となることも多いようです。
当クリニックでは気管支喘息の日常的なメンテナンスを担当します。軽度の喘息発作であれば、まずは当院での診療が可能です。病状が不安定なときや、中程度以上の喘息発作のときには、総合病院の呼吸器科に紹介となります。

COPD(肺気腫)
COPDとは慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)の英語表現です。厳密には間違いですが、日本では「COPD≒肺気腫(はいきしゅ)」と考えてよいでしょう。日本では、COPD患者のほとんどが長年の喫煙が原因です。著明な落語家が、この疾患で亡くなったことは記憶に新しいところです。世界的に増加傾向にあり、死因の第3位になると推定されているそうです。
長年の喫煙(タバコ)により、肺全体に慢性的な炎症が遷延し、少しずつ肺が壊れていきます。ある日、突然にCOPDを発症するわけではありません。自覚症状は咳,痰,体動時の呼吸困難などです。それらの症状が出現したころには、ある程度は進行したCOPDと考えられます。さらに進行すると、るいそう(やせ)や呼吸不全が出現します。肺全体がもろいので、肺の表面が破けて(穴が開いて)肺がパンクする(自然気胸)こともあります。
胸部レントゲン検査、CT検査、呼吸機能検査などを用いて、COPDの診断や重症度の評価を行います。COPD(肺気腫)の肺は「使い込んで目が粗くなってボロボロになった」スポンジのようです。COPD(肺気腫)の肺には、タバコの炭(スミ)が「入れ墨」のように肺に沈着しています(まっくろな肺)(図11)。


COPD(肺気腫)治療の第一は禁煙です。残念ですがCOPDで壊れた肺は、もとに戻りません。残っている肺を最大限に活用できるように、吸入薬や内服薬を投与します。呼吸不全が進行した患者さんには、在宅酸素療法を導入します。前述の落語家さんも、晩年は在宅酸素療法を受けながら落語をしていました。肺全体が壊れていくCOPDでは、細菌性肺炎、間質性肺炎などが合併しやすく、それによって亡くなることもあります。
喫煙さえしなければ防ぐことが可能な疾患です。喫煙中の若い方も、少しでも肺の寿命を延ばすために、今すぐの禁煙をお勧めします。COPD(肺気腫)が心配の方、禁煙をご希望の方は当クリニックにご相談ください。COPDは一生涯つきあっていく疾患です。日常のメンテナンスは当クリニックでも可能です。急性増悪(急にCOPDが悪くなる)を発症した場合、病状によって総合病院への紹介となります。

間質性肺炎(かんしつせいはいえん)
最近、一般の方も耳にすることが多くなった病名かもしれません。通常の肺炎(細菌性肺炎)と異なる点は、細菌(バイ菌)感染ではないことです。トリガー(発症の引き金)は多様で、喫煙、細菌性/ウイルス性肺炎、膠原病(こうげんびょう)などが挙げられています。トリガーが全く不明な症例も多くあります。感染ではないのに「細菌性/ウイルス性肺炎」がトリガーの一つとは、矛盾して見えるかもしれません。最初は「細菌性/ウイルス性肺炎」であり、治療によって細菌やウイルスの退治できたのに、間質性肺炎に移行してしまうことがあります。私も間質性肺炎の診療経験はありますが、喫煙者の方が多い印象がありました。誤解を恐れずに説明すれば、肺の「間質」とは肺の細かい骨組みです。肺には、目に見えないくらい細かい骨組みが張り巡らされています。間質性肺炎は、この骨組み(間質)に広範囲な炎症が発症することです。代表的な症状は、乾性咳嗽(カラ咳)や呼吸困難(息切れ)です。間質性肺炎の病状が進行すると、呼吸不全に進行します。また、慢性的な肺全体の炎症によって、肺全体がもろくなっています。肺の表面に穴があいて肺がパンクする(自然気胸)こともあります。
患者さんの多くは、初期症状の咳や呼吸困難で医療機関を受診することが多いようです。胸部レントゲンやCT検査、呼吸機能検査が基本の検査となります。間質性肺炎の原因特定のため、手術的に肺をサンプリングする(ほんの少し切除する)こともあります。
間質性肺炎が厄介な病気である理由の一つは、病気の進行速度や重症度が患者さんによって異なることです。急激な間質性肺炎の発症例、落ち着いていた間質性肺炎が急に悪化する症例(急性増悪)、ずっとゆっくりと進行する症例など、様々です。治療方法は患者さんによって異なります。原因が分かっていれば、原因の除去(治療)を行います。病状に応じて、間質性肺炎用の新薬、免疫抑制剤、ステロイド製剤を使用します。患者さんも医療者も、治療に難渋することが多い疾患です。
当クリニックでは、間質性肺炎疑い(心配)の患者さんの入り口となり、いよいよ本格的に疑わしい場合には、総合病院の呼吸器科に紹介となります。治療が安定した患者様であれば、当クリニックでも診療が可能となります。
薬剤性肺障害(やくざいせいはいしょうがい)
薬剤性肺障害とは、良かれと思って投与された何らかの薬剤によって、肺がダメージを受けることです。薬の肺に対する副作用です。ありとあらゆる薬剤で、薬剤性肺障害を発症する可能性があります。漢方薬は安全とお考えかもしれませんが、漢方薬による薬剤性肺障害も存在します。原因の薬剤や患者さんによって、症状や重症度は異なります。何らかの呼吸の異常を自覚して、クリニックや病院を受診することが多いでしょう。
レントゲン、CT検査、呼吸機能検査、採血検査などを行います。しかし、検査結果だけでは「薬剤性肺障害」の診断はできません。検査と同時に、患者さんから医療者に、内服薬を正確に教えていただく必要があります。この場合はサプリメントも含まれます。医療機関を(クリニックや病院)を受診する際には、必ず「お薬手帳」を持参しましょう。万が一に備え、「お薬手帳」を常に携帯するのもよいと思います。
薬剤性肺炎の治療は、第一に原因の薬剤の中止です。症状に応じてステロイド剤を投与することもあります。軽症例は、原因薬剤の中止で様子観察(通院)とします。中等症以上の病状では、総合病院に紹介となります。
過敏性肺炎(かびんせいはいえん)
何らかのアレルギー原因物質を繰り返し吸引し、アレルギー性の肺炎となる病気です。アレルギー原因物質は数多く、屋内のカビ(夏型過敏性肺炎の原因)、鳥糞や羽毛(鳥関連過敏性肺炎の原因)、加湿器の中で繁殖したカビ(加湿器肺の原因)、枯れ草のカビ(農夫肺の原因)、塗料(塗装工肺の原因)などです。病気の進行も、患者さんによってまちまちです。
患者さんは、咳や息切れなどの一般的な呼吸器症状で医療機関を受診します。胸部レントゲンやCT検査を行ってみると、普通の肺炎(細菌性肺炎)とは少し異なる影を認めます。最も重要なのは、患者さんからの聞き取りです。家の状態、ペット飼育歴、羽毛製品や加湿器の使用、悪くなる季節があるかなど、色々な状況を聞きます。呼吸科の医師は、検査結果と聞き取りの内容から、過敏性肺炎を疑います。総合病院での専門的な検査が必要になることもあります。
治療の第一は、アレルギー原因物質を除去(離れることこと)です。アレルギー原因物質が住居のカビであれば、カビ生えやすい畳の取り換えや、カビを予防するための改修工事などが必要です。医師が引っ越しを推奨することもあります。鳥糞や羽毛の場合は、鳥の飼育や羽毛ぶとんの使用が禁止となります。過敏性肺炎が慢性化した場合には、ステロイド剤の投与が必要になることもあります。
当クリニックで過敏性肺炎を疑った場合には、総合病院への紹介となります(精密検査と初期治療)。病状が落ち着いた後は、当クリニックに通院していただくことが可能です。
肺癌(はいがん)
わが国の癌(がん)死亡のうち、最多は肺癌です。身近に肺癌治療を受けた方がいらっしゃるのではないでしょうか。肺癌の最も重要な原因は喫煙(タバコ)です。近年,非喫煙者(タバコを吸わない人)の肺癌も増えていますが、それでもやはり喫煙は肺癌の主原因です。喫煙者と非喫煙者の肺癌リスクを比べた場合、男性で4.4倍、女性で2.8倍だそうです。総合病院では、呼吸器内科でも呼吸器外科でも、入院患者さんの半分以上が肺癌かもしれません。
他の癌もそうですが、肺癌も最初は一つの癌細胞から始まります。悪い条件が重なって、癌細胞が順調に細胞分裂を続けていくと悪性腫瘍(癌細胞のかたまり)を作ります。癌細胞1つから悪性腫瘍形成までには、長い時間がかかります(詳細は不明です)。1センチ大の悪性腫瘍(この場合は肺癌)になると、CT検査で写るようになります。治療を受けなければ、肺癌は無制限に大きくなり、リンパや血流にのって全身の器官に転移を始めます(図12)。


主な転移先は、脳、肺(肺癌は肺に転移しやすい)、肝臓、副腎、骨です。
肺癌そのものが大きくなれば、咳、血痰(血液まじりの痰)、肺癌による肺炎(化膿)などを発症します。とても大きくなって、肺癌が肺から飛び出てしまうと、周りの臓器に浸潤します。そこまで進行すると、痛みや癌性胸水(胸に水がたまる)が出てきます。肺癌の症状が出現した(有症状)ときには、ある程度の進行した肺癌と予想します。転移先での症状は様々です。脳転移では脳神経のマヒ、骨転移では痛み(癌性疼痛)などを発症します。
実際には、肺癌の診療を受ける多くの患者さんが無症状です。色々な論文や書籍を調べましたが、無症状で肺癌治療を開始した患者さんの割合は定まっていません。私の経験では、肺癌の診療開始時には、半分くらいの患者さんが無症状であったと思います。無症状の患者さんの大半は、健診や人間ドックにて「胸部異常影」として指摘され、医療機関を受診した方です。
肺癌の検査は、胸部レントゲン、CT検査、採血検査一式、呼吸機能検査などを行います。精密検査の一部(気管支鏡検査やペット検査など)は、総合病院で行います。肺癌は細かく分類され、それに対応した治療が選択されます。治療は手術、薬物療法、放射線治療の組み合わせです。困っていること(痛みや咳など)を和らげる治療(緩和医療)は、診療開始と同時に開始します。実際には、ひとりひとりの肺癌患者さんごとに、呼吸科医師たちが会議に会議を重ねて治療方針を検討します。
当クリニックでは、肺癌が心配な方、健診や人間ドックで「胸部異常影」と判定された方の入り口となります。CT検査にて肺癌の疑いが強まれば、総合病院への紹介となります。一方で、肺癌治療と並行しながら、日常のメンテナンスや緩和医療をお手伝いすることが可能です。

自然気胸(ききょう)
私は土浦協同病院での勤務時代、自然気胸の診療と研究に力を入れていました。自然気胸を簡単に説明すると「肺のパンク」です(図13)。


一般の方は「肺気胸」と呼んでいるかもしれません。肺は空気を多く含む内臓なので、表面に穴が開くと、空気が漏れてパンク(しぼむ)します.交通事故や転落事故でも、外傷性(ケガ)の気胸を起こすことがあります。この場合は外傷性気胸と呼びます。自然気胸の反対語が外傷性気胸というニュアンスです。
自然気胸は若い男性か、肺の慢性疾患をもった中高年に多く発症します。若い男性の自然気胸は有名だと思います。高校生では学年で1人くらいは経験するでしょうし、ジャニーズ事務所のタレントが発症したという話もあります。いわゆる「若い男性、高身長、やせ型」が特徴です。若い女性にも発症することはありますが、若者の自然気胸は、男女比=7:1くらいです。非喫煙者の若者の場合、自然気胸の原因は体質なので、予防のしようがありません。若者でも喫煙者であれば、原因の半分は喫煙(タバコ)となります。若者の自然気胸の多くは、肺の上の方に風船状の病変ができます。その風船のことを、ブラとか肺嚢胞(はいのうほう)などと呼びます。ブラは「フウセンガムのフウセン」のように壁がペラペラで容易に穴が開きます。ブラに穴があいて肺の空気が漏れてしまうと、自然気胸となります。
高齢者の自然気胸は、肺の慢性疾患を持った患者さんに発症します。COPD(肺気腫)や間質性肺炎などが該当します。これらの肺疾患があると、肺の表面がもろく、穴があきやすくなります(自然気胸の発症)。高齢者の(=慢性肺疾患の)自然気胸は、治療に時間がかかり、再発を繰り返すことが多くなります。若者と高齢者との間(中年と言いましょうか)、30~40歳でも自然気胸を発症する方がいます。この場合、多くの患者さんの原因は、体質と喫煙です。
自然気胸の症状は、胸部の違和感や痛みです。肺のパンクの程度が大きいと、呼吸困難になります。片肺が自然気胸になっても、多くの患者さんは歩いて来院します。もう片方の健常な肺があるので、何とか呼吸はできるわけです。
自然気胸の診断には、胸部レントゲンとCTを用います。治療方法として、様子観察、脱気治療、手術療法があります。脱気治療や手術療法は総合病院での診療が必要です。当クリニックでは、自然気胸の診断や、様子観察ですみそうな「軽度気胸」の診療が可能です。脱気治療や手術療法が必要なときには、総合病院に紹介します。

縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)
馴染みのない病名だと思います。私は縦隔腫瘍の研究も行っていました。それもあって縦隔腫瘍も記載させていただきます。縦隔は、左右の肺に挟まれた領域です。心嚢(心臓を包んだ袋)、食道、胸腺、交感神経幹、迷走神経、横隔神経などが含まれます。心臓は循環器科、食道は消化器科が担当しますので、残りの内臓から発生した腫瘍が呼吸器科の担当になります。胸腺からは胸腺腫瘍、交感神経幹や迷走神経からは神経原性腫瘍などが発症することがあります。この場所に、血液疾患であるリンパ腫が発症することもあります。いずれもまれな疾患です。健康診断や人間ドックで偶然に発見されることも多いようです。
当クリニックでは、胸部レントゲンやCT検査によって縦隔腫瘍の検査が可能です。縦隔腫瘍が発見された場合には、総合病院に紹介します。
睡眠時無呼吸症候群
眠っているときに、短時間ですが呼吸が止まってしまう病気です。ご家族から「夜間,いびきが止まって、息(呼吸)も止まっていた」と指摘された方がいらっしゃるかもしれません。この病気の大半は、睡眠中に咽頭(口の奥から喉の入り口)が閉塞する(塞がる)ことが原因です。肥満の方は脂肪組織が多いため、通常よりも咽頭が狭くなり、気道閉塞(→呼吸停止→睡眠時無呼吸症候群)のリスクになります。一方、日本人は下顎(下あご)が小さく、肥満でなくともこの病気になる方が多いようです。
咽頭の狭窄や閉塞のメカニズムは、以下のとおりです。深い眠りで咽頭や舌の筋肉がゆるむと、舌根(舌の奥)が重力で落ち込んで気道(空気の通り道)が狭くなります。狭い気道を空気が通るとイビキになります。完全に閉塞(通らない)してしまうと、呼吸が停止します(無呼吸)(図14)。


無呼吸なので酸欠の状態となりますが、本人は眠り込んでいるために気が付きません。だいぶ時間がたって酸欠が進んだあとに呼吸を再開します。患者さんは。夜間の酸欠と浅い眠りのために「熟睡感」が得られません。その影響で、日中の眠気(ねむけ)、いねむり、頭痛などが出現します。
正確にこの疾患を診断するため、睡眠中に検査機器を付けていただきます。簡易的な検査法であれば、一晩の自宅検査が可能です。後日、検査データを解析し、この疾患かどうかを診断します。検査機器が、1時間に5回以上の無呼吸(1回10秒以上)を検出したときに睡眠時無呼吸症候群と診断します。より精密に検査を行う場合、総合病院に検査入院するケースもあります。
この病気に対する特効薬はありません。肥満の患者さんには、ダイエットを頑張っていただきます。舌根(ぜっこん:舌の奥)が気道を塞がないように、横を向いて寝る(側臥位)方法もあります。それでも無呼吸が治らないときには、CPAP(シーパップ)療法を行います。毎晩、寝るときに、専用の呼吸補助装置を装着する治療です。根本療法ではなく対症療法で、毎晩の装着が煩わしいなどの欠点があります。しかし、睡眠時無呼吸症候群をほっておくと「数年後に重大な心臓血管疾患が多く発症する」とのデータが発表されています。適切なCPAP療法は、この重大疾患(突然死の可能性もある)を予防するので、よく納得していただいてCPAP治療を導入します。
当クリニックは検査機器の専門業者と協力し、睡眠時無呼吸症候群の診断を行います。CPAP療法の適応となる方には、その導入を行います。病状によっては、総合病院に紹介することもあります。

参考にした書籍
1.門田淳一 他,呼吸器疾患最新の治療2019-2020,南江堂
2.日本呼吸器学会,新 呼吸器専門医テキスト,南江堂
3.「呼吸器内科」編集委員会,「呼吸器内科」第34巻特別増刊号 呼吸器内科診療マニュアル,科学論評社
4.藤井義敬,呼吸器外科学 第4版,南山堂
5.福井次矢 他,今日の治療指針2019,医学書院
6.その他

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